遺言書を作成するメリットを考える。遺言書がある場合の相続

 遺言書を作成すると、相続に関する争いを避けられると聞いているけれど、具体的にどのようなことが避けられるのか、イメージがわかない、という方向けに、遺言書がある場合と遺言書がなかった場合の相続の違いをご説明します。

前提

 遺産には、自宅土地建物と、現預金、株式があると仮定します。

 相続人は配偶者と子ども二人、遺言書ですべての遺産についてどのように分けるかを指定してあるものとして、考えます。

亡くなった後の話し合い

遺言書がある場合

 遺言書を、相続人3人で確認し、自分が何を取得するのかを把握します。

 その上で、遺言書に記載されていない財産がないか、念のため確認します。

 なお、自筆証書遺言(手書きの遺言書)の場合、裁判所の検認手続きが必要になります。

遺言書がない場合

 まず、遺産に何があるのかを、整理する必要があります。

 遺産の全体像を整理しないと、その後の話し合いを進めることは難しいので、必ずきちんと行う必要がありますが、一番把握している方は亡くなられているため、残された方が探すのは非常に大変です。

 遺産の整理が終わったら、法定相続分を考えながら、誰がどの遺産を取得するのかを話し合うことになります。

 それぞれの相続人が自分の欲しいものを主張して、収集がつかないこともあります。

 話し合いがついたら、その内容を遺産分割協議書にします。

分け方に納得できない相続人がいる場合

遺言書がある場合

 遺言書がある場合、納得できない相続人は、遺留分侵害額を請求できる可能性があります。

 遺産を分けること自体は、遺言書で終わっているため、後は、相続人の間で遺留分の清算をすることになります(分け方によっては、遺留分が発生しないこともあります)。

 このときのポイントは、遺産を分けること自体は遺言書で完了しているため、例えば相続人の一人が相続した不動産を自由に売却したり、預貯金を引き出すことが可能になります。

遺言書がない場合

 遺言書がない場合、分け方に納得できない相続人がいる場合には、遺産分割の話し合いは終わりません。

 場合によっては、話し合いがまとまらず、数年以上遺産の分け方が決まらないということもあります。

 遺言書がある場合との大きな違いは、遺産を分けること自体が終わっていないため、相続人の一人が不動産を自由に売却することはできず、預貯金を引き出すことにも大きな制限がかかるなど、相続人の方にとって不都合が非常に大きいといえます。

相続税の申告

遺言書がある場合

 遺言書がある場合、遺言書に従った遺産の分け方をしたうえで、相続税の申告を行います。

 相続税の申告は亡くなってから10か月以内ですが、遺言書があるため、十分余裕をもって準備できます。

 遺留分減殺請求があり、清算された場合、修正申告(更正の請求)をすることになります。

遺言書がない場合

 遺言書がない場合、10か月以内に遺産分割の話し合いが完了すれば、話し合いに従った相続税の申告ができます。

 話し合いがまとまらない場合、いったん未分割で相続税の申告をしたうえで、話合いがまとまったときに、再度申告をすることになります。

 相続税の申告書の作成を考えると、遅くとも1~2か月前には、遺産分割協議を終えなければいけませんが、お互いに言い分がある場合、時間的猶予は余りありません。

まとめ

 遺留分についての法改正もあり、遺言書を作成しておくことで、相続手続きがスムーズに進むことは間違いありません。

 また、遺産をめぐって家族でお金の分け方について話し合いをさせることは、家族の不和につながりかねない面もあります。

 これからの相続にあたっては、遺言書を作成することは、もはや必須といってもいいと思います。