相続登記の義務化を検討しているとの報道について
先日、ニュースで、相続登記を義務化する方向で検討しているとの情報が流れました。
義務化の根拠や理由など、ややわからない部分があったので、現行制度や法制審議会の資料をもとに、私なりに整理してみました。
相続登記の義務化について、興味がある方にご参考になれば幸いです。
なお、以下の相続登記の義務化に関する解説は、法制審議会の資料等を基にしており、案を検討している段階です。
実際に実施されている制度の解説でないことはもちろん、制度が出来上がった際に、全く異なる制度になっている可能性、そもそも義務化がされない可能性がありますので、ご注意ください。
現在の登記制度
土地の登記とは
土地の登記とは、大まかにいうと、土地を誰が有しているかわかるように整備されたものです。
土地は、登記簿にその所在や面積などの記載があり、その所有者が誰であるかが登録(登記)されています。
そして、これが公開されているため、どの土地が誰のものか、ということが、登記簿を確認すればわかる状態になっています。
登記は義務ではない
現在、相続登記を含めた権利変動について登記をすることは、義務ではありません。
通常、不動産を購入した場合、同時に名義変更の手続きを行いますが、これは、購入した方が、権利を守るためにすることであり、しなくても罰則があるわけではありませんでした。
ただし、元の所有者の名義のままになっていると、二重に売買されてしまうなどの危険性があるため、通常、不動産を購入する場合、代金を支払うと同時に名義変更手続きを行います。
相続登記に関する現行の登記制度の悩み
これに対して、相続の場合には、そもそもあまり価値のない土地を相続することがあったり、登記をしていなくても二重に売買される危険性が乏しいといえます。
そのため、相続登記をしないケースもしばしばあり、する場合であっても売買などの場合と異なり、遺産分割協議をすると同時に登記手続きをするケースは余りありません。
結果として、登記手続きがされず、所有者が第三者から見て明らかでない不動産が生じることになります。
所有者不明土地の問題点
所有者不明土地の数
法制審議会の資料及び平成30年版土地白書によれば、 調査した1130地区(563市区町村)の62万2608筆の土地について、20.1%の土地が、登記簿から所有者等の所在が特定できない状態とのことです。
このうち、相続登記がされておらずわからないケースが66.7%、住所変更の登記がされておらずわからないケースが32.4%とのことでした。
今回のテーマである相続登記について、調査地区別にみていくと、以下の表のとおりとなります(平成30年版土地白書記載のデータを加工)
宅地 | 農地 | 林地 | |
調査対象筆数 | 98,775 | 200,617 | 243,433 |
所有権移転未登記(相続) | 10,399 | 24,375 | 43,445 |
割合 | 10.5% | 12.2% | 17.8% |
以上のとおりとなっており、特に林地で相続登記がされていないケースが目立ちます。
相続登記がされないことの問題点
登記制度は、土地の所有権が誰のものかを明確にすることにあり、もし登記を変更しなかった場合には、そのことから生じる不利益は登記を怠った本人が負うことになる、というのがもともとの制度の建前です。
そのため、登記をすることは義務とはされていませんでした。
しかし、実際には、登記が変更されていないことにより、様々な弊害が生じることから、今回、相続登記について義務化が検討されています。
河川改良事業などで、土地の取得が必要な場合、相続登記がされておらず、所有者の特定が難しいケースがあります。
その他、管理がされずに周辺へ環境被害が生じているケースなどもあります。
いずれの場合も、相続登記がされていないこととともに、複数回の相続の発生により、所有者(遺産共有者)が非常に多いことが合わせて問題となります。
相続登記の義務化で考えられている制度
相続が発生した場合、一定の期間内(報道では10年)の間に、相続登記をしなければいけない、という制度が考えられています。
義務化と併せて、登記手続きの簡素化や、期間が経過してしまった場合、過料が課せられることなどが検討されています。
過料について
過料とは、手続きを怠った場合などに、行政機関から課されることがあるもので、刑罰ではありません。
一般に生じうるケースでは、例えば引っ越しをした後、正当な理由なく、2週間以内に転入、転出の手続きをしない場合、過料が課される場合があります。
実際に課されたケースはあまり聞きませんが、課されることもあるようです。
相続登記の義務化のメリット
相続登記を義務化しても、しないことで過料が課されるだけでは、法律上の義務とされることにより、きちんと手続きをするようになるとしても、大きな効果は見込めないと思われるかもしれません。
しかし、相続登記を義務化することは、上記改正案と関連して、重要な意味があるようです。
本来、法務局は、登記手続きを行うにあたり、勝手に個人情報を取得し、死亡の情報や戸籍を把握することはできません。
そのため、相続登記の際には、戸籍謄本を含む非常に多くの書類の提出が求められます。
しかし、相続登記が義務化され、本来は相続人が義務としてやらなければいけないということが前提にあると、相続人が義務を履行しないため法務局が情報を取得する、ということが可能になると考えられています。
…登記所が所有権の登記名義人から,本来 の登記事項として必要な範囲(氏名及び住所の情報)を超えて,生年月日等の情報の申 出を求め,当該情報を用いて連携先システムから死亡情報等を取得することができるこ ととするためには,その前提として,相続登記の申請が義務付けられており,本来は登記名義人の相続人自身が不動産登記情報の更新を図るべき地位にあることが重要であり, そのような義務を根拠としてこそ,登記所が死亡情報等を取得し,これを更なる施策に つなげることが許容されるといい得ると考えられる。
法制審議会民法・不動産登記法部会第10回会議資料 中間試案のたたき台(不動産登記制度の見直し) より引用
相続手続きにおける手続の簡素化が行われることは、相続登記を促す一つの材料になると思われます。
まとめ
いずれにしても、まだ制度は検討段階です。
今後、どのような制度が作られるのか、注視していたいと思います。
法制審議会の資料は、相続登記の義務化のほか、10年経過後の相続に関することなど含め、様々な議論がされているようで、その内容は法務省のHPから確認することができます。
ご興味ある方はご覧ください。