相続対策としてのアパート経営と、相続税の節税について

 先日、相続税対策のためのアパート経営に関して、以下のニュースが流れました。

富裕層の“行き過ぎ”相続節税に国税庁が「待った!」

 相続税対策としてアパート経営を勧められた、実際に今行っている、という方でこのニュースをご覧になった方もいらっしゃると思います。

 私も、報道ベースでしか事情を把握していませんが、ニュースの前提となるアパート経営と相続税の節税について、ご説明したいと思います。

 なお、以下の記事は、私の弁護士として取り扱ってきた経験をもとにご説明しておりますが、正確な税務知識については、個別に税理士にご確認ください。

アパート経営と相続税の節税

 記事によれば、亡くなられた方は、2棟で合計13億円以上するアパートを購入したものの、その相続税評価額は、申告書記載のベースで3億円程度となったようです。

 まずは、なぜこのようなことが生じるのかご説明します。

アパートの価格の2面性

 アパートの価格を考える場合、以下の2つの観点から考えることができます。

  • 投資物件としての利回りという観点
  • アパートの、物としての価格という観点

 以下では、この2つの観点を説明したうえで、なぜ節税効果が生じるのかをご説明します。

 ニュースの例と同様に、中古のアパートを購入する、というケースで考えますが、新築のアパートを建てる場合も、同様の考え方が成り立ちます。

投資物件としての利回りという観点から考える価格

 すでに建築されているアパートを購入しようとする方が考えることは、「このアパートを買ったら儲かるのか」ということです。

 アパートの毎年の賃料収入(見込)や固定資産税の金額、維持修繕などにかかる費用を考慮し、アパート経営で利益が出るのかどうかを検討します。

 そして、アパートの価格、借り入れの場合には金利などを考慮し、アパートを購入して経営を始めた場合、何年くらいで元が取れるのか、という考え方です。

 アパートを購入するときの価格としては、投資を目的とすることから、こちらの考え方で決まることが多いといえます。

 ニュースの事例でも、実際にアパートを購入した場合、どのぐらい利益が出るかは購入前に当然検討していると思います。

アパートの物として観点から考える価格

 アパートは、土地とその上に建てられた建造物に分けられます。そして、それぞれに価格をつけることが可能です。これが、アパートの物としての価格という観点です。

 このうち、建物は、経年劣化を考慮した金額で考えることが(一応)可能です。

 土地の価格と建物の価格(ただし、経年劣化を考慮した価格)の合計額が、アパートの価格と考えることもできます。

中古アパート購入が節税効果を生じさせる理由

 アパートを購入する際の価格は、通常、投資物件としての価格で決まります。購入して儲かるかどうか、どのくらい儲かるか、という点で決まります。

 これに対して、アパートにかかる相続税は、アパートの土地と建物としての価格として決まります。

 これは、相続税の課税にあたって、アパートの投資物件としての評価が(鑑定などしないと)難しく、恣意的になると課税の公平性を害することなどからです。

 また、相続税評価は、通常の土地などでも、時価の8割程度に設定されています。

 これらの事情から、アパートを購入すると、相続税の節税ができる、といわれています。

 ニュースの事例でも、投資物件としての評価が2棟で13億円程度だったものが、土地と建物の評価としては3億円程度だったため、このようなことが生じたと思われます。

遺産分割との関係

 弁護士が介入する遺産分割との関係では、アパート経営はもめやすい、ということが挙げられます。

 アパートの価値自体は投資物件としての価値で考える方が妥当と考えられるケースでも、分割協議では相続税評価を前面に主張する、ということはしばしば生じます。

 結果として、アパートの評価で折り合いがつかないということはよくあります。

 その他、単純に、アパート経営の見通しが立たず、評価が定まりづらいという点も、もめる原因です。

 また、ニュースのケースでは、鑑定の結果、アパートの価値は購入時とそれほど開きがなかったですが、しばしば、節税効果を前面に出したセールスが行われたようで、賃料収入が伸び悩むなどした結果、評価額が購入した時点より下がってしまっているケースもあります。

 この場合、安いものをつかまされ遺産が減ってしまい、全体として損をした、ということもあり得ます。

 十分に吟味することが必要です。

ニュースから見た今後の節税について

 ニュースのケースは、節税効果が極めて大きいものであり、看過できないものだと国税庁が判断し、鑑定まで行ったのだと思われます。

 土地及び建物の価格決定の方法からすれば、土地建物を購入することで節税効果が生じることは、制度上生じうるものであるため、このニュースから、今後土地建物を活用した節税がすべて否認されるとまではいえないものと思われます。

 しかし、アパート経営など、購入価格と相続税評価額の乖離が著しいケースなどでは、今後鑑定が活用される可能性もあるため、注意が必要といえます。

 特に、相続税の節税に関しては、対策をしてから実際に節税の効果が生じるまで(なくなるまで)に相当の期間があることから、法律改正や通達により、当初想定していた節税効果が全く生じなくなるということもしばしばあるため、特に注意が必要といえます。